2024年7月2日火曜日

2024.07.02 自分にピッタリの1本の鉛筆を選びだすことはできるのか

● こうして鉛筆を使っている。使いかけになっているBの鉛筆から使い切っていこうとしているのだが,途中で使いかけが新たに見つかったりして,なかなか使い切るところまで行かない。


● 今使っている鉛筆は,学童が使うかきかた鉛筆を始め,安い鉛筆ばかりなのだが,総じて三菱がいい感じ。

 好きか嫌いかではなく,「いい」鉛筆。黒鉛の使用量も多いのかも。ただし,比較対象はトンボの ippo! と三菱の9800だから,公平ではないかもしれない。


● 多くの鉛筆を使っていく過程でお気に入りの1本ができるか。書くメーカーがしのぎを削っている中で,自分にピッタリの1本というのが出るのか。

 無理だと思っている。多くの鉛筆を使ってしまうと,1本を選び出すのは至難の技になりそうだ。


● 遠藤周作は Hi-uni の2Bしか使わなかったそうだが,それは次々に使ってみて選んだのではなくて,何度目かにたまたま Hi-uni を使って,これでいいと思い,以後の探索をやめた結果ではないかと想像する。

 そうでなければ  “この1本” は生まれて来にくそうな気がする。


● 結婚相手を選ぶのと同じ。世界中の女性を広く比較できる神様的な立場にあったら,相手を1人に絞るなどという芸当はできるはずがない。

 リアルに出逢える人はごく限られた数になるという制約があって,選択肢がごくごく限られるから,何とかなっているのだ。

 こちらも寿命や生殖可能期間が限られているのだから,選択肢も限られないと困った事態になる。


● そのうえで,自分のお気に入りの鉛筆が三菱の9800やトンボの8900に収まってくれるといいなと思っている。

 なぜ9800や8900かというと,価格の問題ではない。こちらのダンディズムにハマるというかね。「道具じゃないですよね。その道具をどう使うか,道具を使って何を生みだしているかが問題ですよ」と嘯くのにちょうどいいのが9800や8900だという気がするだけ。

 厭味ったらしい理由だ。


● 先に,トンボの ippo! より三菱の9800の方がいい鉛筆だと言ったけれども,では ippo! は使わずに9800を使っていくのかというと,“いい” というのが選択理由になるとは限らない。それも結婚手を選ぶのに似ている。

 たとえば,昔のコーリン鉛筆は粒子が粗くてザラザラする擦過音(筆記音)もなかなか大きい。これを評するに粗悪としてよいと思うのだが,粗悪だからダメかというと,必ずしもそうではない。

 自分の小学生時代をヴィヴィッドに甦らせてくれる。昔はこうだったんだよ,こんな感じだったよ,と。それは,大げさに言えば,ひとつの歓びをもたらすものだ。


● そういうこともあるので,鉛筆の場合は鉛筆単体の完成度,仕上がり具合もさることながら,使っているこちら側との関係性が意味を持ってくる。その度合いが万年筆やボールペンよりも大きいように思える。

 鉛筆を評価する際にこの関係性はどうにか排除できると思うが,それでも1本を選びだすことはできないと思う理由がほかにもある。


● シャープペンや万年筆など他の筆記具に比べて,鉛筆は円陣を組んでいる感がある。この例え方は適切ではないかもしれない。メーカーは互いに競争しており,円陣を組むどころではないわけだから。

 ただ,大人になってからも鉛筆を使っている人はそんない多くない。本業か趣味かで絵を描く人たちくらいのものじゃないか(だから,メーカーは絵を描く人を増やそうと努力をしている)。ぼくも3ヶ月前までは万年筆派だったのだ。

 その少ないユーザーのためにメーカーが肩を寄せ合っているというイメージを作りがちなんだな(もちろん,そのイメージは間違っている。メーカーはどこもそんなにヤワじゃないんでね)。


● 徒し事はさておき,各メーカーが世に出す製品を見ていると,個体間にビックリするような品質差はないと思えるわけですよ。

 わずかな違いをことさら大きく話題にするのが,鉛筆党員の性というものだ。Hi-uni と9800の違いは確かにあるのだけれども,騒ぎ立てるほどのことでもない気がする。


● ぼくが文字しか書かないからそう感じるのだろうが,9800で充分だと言える。Hi-uni では過剰品質だ。

 1本あれば少なくともひと月は使えるのが鉛筆だ。過剰品質に走ることに罪悪感を覚える必要はない。月に66円ですむものに165円を投じたからといって,誰に叱られるわけでもない。ただ,66円で充分だというだけだ。


● 鉛筆があまりに安いためか,鉛筆という種の中で個物の境界線がクッキリと浮き立ってくることがない。いや,個物の個性はもちろんあるのだが,その違いは点線的というか。

 鉛筆の他の筆記具に対する特徴が強烈すぎるので,鉛筆の内部では個物の個性が目立たないという言い方でも良い。


● それもあって,この1本というのはけっこう決めづらいかなと思っている。何だっていいよ,ってことになりそうだ。

 現に,こうして使っている ippo! でぜんぜんいいと思っているので。


● 鉛筆の芯を自社生産しているのは三菱とトンボだけらしい。他のメーカーはオリエンタル産業㈱の芯を使っているのだろうが,三菱とトンボにしても自社製品のすべてに自社製芯を使っているのかどうか。

 他のメーカーもオリエンタル産業の既製品を買うのではなくて,オーダーメイドしているのだろうが(そもそも,既製品があるとは考えづらい),鉛筆の核心をオリエンタル産業に頼っている以上,キーマンはオリエンタル産業と言っていいのだろう。


● 以前のパソコンが,NECであれDELLであれhpであれ,どれもがインテルのCPUを積んでいたのと同じと言っていいのかどうかはわからないけれども,メーカーによる違いというのは,業界の構造上,さほどには出にくいのではないか。

 このことも  “この1本” を選びだすのを難しくしている理由だろうと思う。


● 以下は余談。BLACKWING もオリエンタル産業の芯を使っていると睨んでいるのだが,それと同じか非常に近い芯を使っているのが北星のクラフツマン。

 してみると,BLACKWING の BLACKWING たる所以は,芯ではなく,消しゴムをはじめとするデザインと色使いにあることになるのだろうか。


● 製品の価値を作るのは,実ではなく虚の部分。製品として成熟している鉛筆の場合は,特にそうなるのかもしれないが,ま,素人の想像に過ぎない。

 そこで,ぼくらは虚で儲けられるなんてボロくていいなと思ってしまいがちなのだが,どっこい,虚はとんでもない金食い虫なのだろうな。実で勝負できる方が,はるかに安上がりですむのだろう。

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