2016年11月10日木曜日

2016.11.10 菅 未里 『文具に恋して。』

書名 文具に恋して。
著者 菅 未里
発行所 洋泉社
発行年月日 2016.10.07
価格(税別) 1,200円

● 著者は「文具ソムリエール」。文具雑誌やムックなどにも頻繁に登場していますね。
 文具ソムリエールとは何かといえば,「私が「あ,いいな」と感じた文房具をご紹介しているだけ,とも言えます。あえて特徴を探すならば,その「いいな」の内容に,機能性よりも見た目や手触り,音などの感性面が目立つことでしょうか」(p2)とのこと。

● 感性面? たとえば,次のようなことだ。

 そのとき,今まで聞いたことのない音がしたんです。箱の中で鉛筆どうしが当たる音でした。「カラカラ」というほど乾いてはおらず,でも「コンコン」というよりは軽やかな,独特としか言いようのない音です。私はその音にすっかり魅了されました。(p77)
 本来が実用品である文房具を感性で選ぶのは,なんだか変な話です。普通は感性よりも機能性が重視されると思います。 でも,実は感性にはとても大切な意味があります。人と人をつないでくれるからです。(中略)誰でも五感で世界を感じていますから,最初に他者に触れるのは五感のいずれかです。(p81)
 ノートや手帳の紙には繊維が粗いものと細かいものがありますが,私は粗いほうが好きです。それは,鉛筆の黒鉛が繊維の隙間に「入っていく」イメージが浮かぶからです。(中略)繊維が見えるような紙に6Bの鉛筆で字を書くと,ゾクゾクします。(p88)
 削り終えてふと紙の上を見ると,削りかすたちがなんともいえない,美しいカーブを描いていたんです。綺麗に向かれたリンゴの皮を,さらに複雑にしたようなカーブです。削りかすに魅力があるなんて,知りませんでした。(p94)
 実は鉛筆は,さらに別の魅力も秘めていました。それは香りです。(p97)
 文房具の特性のひとつは常に自分の視野に入るということですが,好きな色が見えていたら気分も変わりますよね。色は特に重要な要素です。(p112)

● その文具ソムリエールがお気に入りの文具をいくつか本書でも紹介している。

 私の脚が,ある諸ケースの前で止まります。そこには1本のシャープペンシルが飾られていました。(中略)トンボの「ZOOM707」。異色のデザインでした。私の目はくぎ付けになり,胸は高鳴りました。こんなに素敵なペンが世の中にあったなんて・・・・・・。それが初恋でした。(p17)
 アルバイトをはじめて真っ先に買ったのがモレスキンのノートです。(中略)興味を持ったきっかけは「どうしてこんなに高いんだろう」という驚きでした。(中略)でも同時に,素敵だとも思ったんです。(p23)
 パーカーに「ジョッター」という有名なボールペンがあります。ベーシックな「ジョッター フライター CT」が1620円で売られていますが,パーカーを象徴する矢羽クリップといい,飽きのこないデザインといい,価格以上の満足感を得られます。(p53)
 その日の主役が紙なのか筆記具なのかは,気分によって変わりますよね。筆記具の日なら紙には控え目でいてほしい。 控え目というと,たとえばコクヨの「キャンパスノート」はとっても優秀です。(p87)
 私が大好きなペンのひとつに,ぺんてるの「サインペン」があります。108円で買えるこのペンも,高級ペンに負けない魅力を秘めているんですよ。(中略)安価な文房具のいいところは他にもあって,それはデザインがシンプルなことです。サインペンもそう。凝ったデザインは好き嫌いが分かれますが,シンプルなら万人に好かれます。(p120)
 一般に男性のお客様は直線的,女性は曲線的なものを好まれますが,直線的であるしかないペンに,巧妙に曲線を馴染ませたのがカヴァリエです。(p129)
 ラッションプチは,寺西化学工業製品とは思えないくらい「不親切」なペンです。何が不親切って,ペンのどこにも日本語が見当たらないんですよ。(中略)それが,女子高生を惹きつける可愛いデザインになっているんです。(p153)

● 著者の人となりを示唆するエピソード。

 文房具のおかげでなんとか,思春期を乗り切ることができた(p16)
 大学時代の私の情熱の対象は文房具以外にもありました。ひとつは,『CanCam』『JJ』などの,いわゆる「赤文字系」ファッション誌です。(中略)モデルさんたちが使う文房具が気になったからです。(中略)そのうち,あることに気づきました。私が好きなストーリー仕立ての記事には,しばしば主人公たる女性のペットが登場します。面白いのは,そのペットの名前に「ココア」とか「モカ」とかカフェ関係が多いことです。私はペットの名前を追うことが楽しくなり「ペットの名付けと飼い主の性格特性」というテーマで卒論を書くことにしました。(p26) 

  これが卒論のテーマになるのか。社会学部? 文学部? 目からウロコ。卒論って楽しんじゃっていいものだったんだ。苦しみながら書くのは外道かもしれないね。ぼくは卒論って書いたことはないんだけどね。

  考え事が多い日は本を持たずにお風呂に入ることもありますが,手ぶらということはありません。お風呂で浮かぶアイデアって多いじゃないですか。シャンプー中は両手が泡だらけだからメモがとれないのでは,と心配なさる方もいらっしゃるかもしれませんが,不思議なことに,何か思いつくのは決まって湯船の中なんです。(p43)

● その他,いくつか転載。

 外国製ボールペンはインクが「硬い」傾向があり,ぎゅっと筆圧をかけて,かつ,それなりの筆記速度で書かなければインクの出がいまいち,ということがたびたび起こります。(p63)
 海外製ボールペンの書き味に違和感を覚える方向けに,サードパーティー製のリフィルアダプタが売られています(実は私も,モンブランの中身をそっとジェットストリームに替えています)。(p64)
 私の見る限り,ペンなら,ご自分用にお買い求めになる価格の上限がだいたい5千円くらいです。つまり5千円以上のペンは,他人から貰わない限り,自分のものになる機会がないんです。(p69)
 もっとも需要があるのは事務用品で,社員に文房具を配らなければいけない会社がまとめ買いをしてくれていたんですね。ところが2008年のリーマンショックにより,社員向けの文房具の需要ががくんと減ったといわれます。コストカットのためです。 会社からの受注が減ると,メーカーは今まで以上に個人にも目を向けるようになります。その結果,どの文房具もデザインを競うようになりました。(p108)
 女性の存在感は,文房具界では大きいんです。(中略)実は,「大口の顧客」には,女子高生もいました。(中略)女子高生ってカラーペンを大量に持っているじゃないですか。彼女たちは文房具界にとっての大切なお客様なのです。(p109)
 私はいつも思うんですが,文房具って趣味としてはコストパフォーマンスが抜群にいいと思うんですよ(万年筆は確かに高価ですが,文房具全体から見ると例外です)。(中略) 3千円でハイエンドに手が届くんです。普通,物の値段は「エントリークラス」「ミドルクラス」「ハイエンド」をいうふうに分かれていますが,ボールペンは二極化しています。ミドルクラスが極端に少ないんです。ハイエンドの価格が,それほど高くないせいでしょうか。(p116)
 筆記具は価格による機能差がないか,非常に小さいという,とても珍しい実用品です。(p125)
 男性のお客様がお買い求めになるペンの色は,だいたいが黒かシルバーに落ち着きます。(p138)
 「イエローベース」と「ブルーベース」という言葉を聞いたことがある女性は多いと思います。(中略)イエローベースの肌の方は,落ち着いた色のペンを選んでみてください。対して,ブルーベースの肌の方には,ビビッドな色が映えます。(p141)
 男性にとって永遠の定番といわれるのが,黒とゴールドの組み合わせです。ベーシックで,どんな場面にも馴染みます。でも私は,若いうちに買わなくてもいいと思うんです。この色は歳を重ねても似合う色ですから。若いうちは青系の色を楽しんでおくのがいいのではないでしょうか。(p146)
 歳を重ねた男性は恰好よさの「加点」を狙うよりも「減点」を減らしていくスタイルのほうがいいと思うんです。(中略)減点,つまりお腹が出ているとかズボンがヨレヨレだとかの「恰好悪い要素」を極力なくすだけです。(p148)
 20代や30代の女性では,白系や,白にゴールドのカラーをお買い求めになる方が多いですね。(p156)
 百貨店のスタッフの間ではよく知られているらしいことなんですが,お子さんがいるような歳の女性への贈り物は「華やかなものを選ぶべし」が大原則です。地味じゃダメなんです。(中略)真っ赤だと幼くなってしまいますから,原色ではなく少し深みのある,たとえばルビーレッドなどはいかがでしょう。(p157)
 ボールペンをご希望の場合,私ならば,この段階で3本のボールペンをお出しします。3本になるのは,あまりたくさん出してもお客様を混乱させるだけだからです。選択肢となる本数は,経験上3本が限界だと感じます。(p164)

● ぼくはダイスキン+Preppyの300円システムでやっているし,これからもそうであり続けるつもりだから,文具ソムリエールのお世話になるような高みに登ることもないと思う。
 だけど,文具好きあるいは文具フリークの話を聞くのは大好きだ。この本も面白く読みました。

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