2025年9月14日日曜日

2025.09.14 キャロライン・ウィーヴァー(片桐晶訳)『ザ・ペンシル・パーフェクト』

書名 ザ・ペンシル・パーフェクト
著者 キャロライン・ウィーヴァー
訳者 片桐 晶
発行所 学研プラス
発行年月日 2019.12.17
価格(税別) 3,000円

● 副題は「文化の象徴 "鉛筆" の知られざる物語」。鉛筆好き,文具好きにとっては,バイブル的な本になっているっぽい。
 ぼくはまだニワカ鉛筆族の域にいる人間だが,遅ればせながら目を通してみることにした。

● 内容は鉛筆史。鉛筆と鉛筆に関わった人間の足跡をかなり詳細に調べてまとめている。もちろん,先行業績は色々ある。著者が一番お世話になったのはヘンリー・ペトロスキー『鉛筆と人間』らしい。何度も引用している。
 にしても,よくもまぁこれだけ調べたものだと感嘆する。

● 鉛筆が今の鉛筆になるについては,いくつかの発見・発明と偶然が与っている。画期的な発見と発明ば比較的初期に現れる。それらについても著者は丹念に紹介しているのだが,あまり面白くない。
 日本史でも先史時代や古代はあまり面白くないのと同様か。いや,そんなことはない,逆だ,と言う人もいるだろうけど。

● 本書の後半では,消しゴム付き鉛筆のフェルールがどうとかいう話が出てくる。およそどうでもいい話なのだが,それが逆に面白いから困ったものなのだ。
 自分に引き寄せやすい具体的な話の方に人は惹かれるということなのだろう。

● p28に「1900年頃に製造されたA.W.ファーバー製の銀のポケットペンシル」の挿絵が載っている。「木の部分を金属ケースに差し込めば,便利な筆記具ができあがる」というやつ。
 現在の Faber-Castell のパーフェクトペンシルはこいつのオマージュなのかね。書く・消す・削る が1本でできるからパーフェクトというのは,販売のトリガーを作るための方便で,Faber-Castell だってそんなのをパーフェクトだと信じているわけではないだろうからね。

● 本書の欠点はB5サイズと大きいこと。おまけに厚い紙を使っていて、重量もかなりある。電車の中で読むには不向きだ。机かテーブルが必要になるだろう。
 ところが,ぼくは自宅ではまず読書というものをしなくなった。読むのは電車に乗っているとき(しかも座れているとき)に限られる。それゆえ,読み進めるのに難儀した。

● 以下に転載。
 何よりも重要なのは,鉛筆の硬度基準は世界共通の規格ではないということだ。(中略)アメリカの規格基準局がこの難題に取り組んだことがあったが,詩っぱに終わっている。(p72)
 わたしはいまも,フェルールからかつての独創性が失われてしまったことをとても残念に思っている。(中略)わたしの知る限りでは,パロミノ社が復刻したブラックウィング602のフェルールがいま現在も製造されている個性的なフェルールの唯一の例であり,そのフェルールでさえ,かつての姿とまっく同じというわけではない。(p105)
 1970年代にファンシー鉛筆の潜在能力を最大限に活用すてみせたのが日本だ。(中略)日本では,ファンシー鉛筆を専門に扱うリボン鉛筆会社を含めたさまざまなブランドが参入していた。(p117)
 ありがたいことに,日本のアイボール鉛筆が,集めたくなるだけではく実際に楽しく使える製品をつくってくれている。(p122)
 同社(ジェネラル・ペンシル・カンパニー)の工場はいまでも故郷のジャージー・シティーで操業していて,国内においては,創業時から製造を続けている最後の工場と認識されている。(p127)
 鉛筆を日常的に使っている人は,日本の鉛筆がほかの国とは別種の存在であることを実感として知っているはずだ。(中略)日本ほど文房具に情熱を傾けている国がないことは明らかだ。(中略)文房具と真剣に向き合う顧客が相手なのだから,商売をするほうも真剣だ。(131)
 日本の文具店で真っ先に気づくのは,さまざまな硬度の鉛筆がすべてばら売りされていることだ。(p131)
 日本の鉛筆業界の最盛期には,125社を超える企業が存在していた。当時に比べれば業者の数は激減したが,日本の鉛筆製造の伝統はいささかも損なわれていない。(p134)
 日本の文具店でのショッピングはというと,鉛筆とその多彩な関連商品にどっぷりと浸っていられる,ほかでは決して味わえない体験だった。(p135)
 不思議なのは,アナログな道具の復権が進むにつれ,国家認定の鉛筆界の英雄を自負するブランドがつくる,入手しにくい製品を求める風潮が高まっていくことなのだ。(p145)
 ファーバーカステルやステッドラーの場合は,長い歳月で培われてきたドイツの老舗としての評判や歴史が製品そのものを凌駕するほどだ。背景に物語があるからこそ,こういった鉛筆が売れているのだ。(p147)
 インターネットが一般向けに公開される1年前に,ヘンリー・ペトロスキーの『鉛筆と人間』が公開されている。鉛筆の歴史をまとめた包括的な資料としては唯一のものであり,机に向かったまま膨大な情報を入手できるようになる以前に書かれたという意味で称賛に値する本だ。(p148)
 鉛筆で文字を綴るのは,確かな自由が約束された,心と直接結びつく行為であり,それはコンピュータには絶対に入り込めない領域だ。(p151)

0 件のコメント:

コメントを投稿